バルコニーに置かれた合成樹脂の入れ物の中で、
カメは冬の眠りについている。
カメの愛らしさといえば、
切れ長の目をこちらに向けてじーっと見るのと、
水中からすーっと首を伸ばして水面に浮かんだエサをパクつくそのしぐさである。
クサガメには一つ、難点がある。
臭いはクサという字の如くで、
とりわけ夏場は毎日水を換えてやり、
甲羅のヌメリを数日に一度はふき取るケアが必要だ。
それがカメを室内ではなく、バルコニーで飼う理由なのだ。
当初は私の人差し指とほぼ同サイズの子ガメだったが、
それがいまや27㎝の甲羅を背負ったオオガメである。
50年生きるギネス級のカメもいるが、
うちはそこまでいかなくとも、
甲羅はまだ大きく膨らむ可能性はあるだろう。
毎年11月も中旬を過ぎる頃、
近所の公園に行き、バケツいっぱいの落ち葉を調達してくる。
落ち葉を入れ物に敷き詰めてやり、
寒さと乾燥からカメを守る準備をする。
カメは落ち葉の層に潜り込んだまま微動だにせず、
水中から姿を見せることはない。
まるでそこだけ時が止まったような、静寂の世界だ。
日中の光にやわらかな春の兆しを覚える頃、
わさわさと落ち葉の層が動きだすのを待っている。
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