当局の立地条件を指して周りは度々私に訊いてきます。
駅の東口からまっすぐ東へと伸びる竹の塚商店街。
昔ながらの小さな店舗が左右に軒を連ねるその後尾に、
当局があります。
商店街の通りの先の右手には、
威風堂々な構えのスーパー「イオン・マックスバリュー」が。
日中の商店街の通りには、バリューを利用する人の動線が引かれるのです。
辺りが暗くなる時分、商店街の景色は、日中とは対照的になります。
コロナ禍による自粛ムードも手伝って、街を照らす店舗の明かりもまばらです。
飲食する人の、あの耳障りなくらいの賑わいなんて、
例年の師走の何分の一も聞こえてきません。
目につくのは、
吹く寒風に家路に急ぐ足元をからませながら過ぎていく、
チャリや徒歩の人たち。
お終いのシャッターを下ろそうと、
暖房を消したばかりの相談室から私はドアを開け店先へと出ます。
首筋を刺す風の冷たさに身震いしてしまう。
けれど今年に限っては、頬には違う感覚を覚えます。
頬のマスクが、
朝起きてすぐ一枚羽織れば背に温もりが得られるのと同じみたいな、
温かく包む感覚を生んでいる。
そうか、こんなやり方の保温対策があったのか。
寒い冬の外では、マスクに限るな。
改めて、そんなバカみたいな単純なこと気づかされたのは、
もともと私はマスクが嫌いで、
それまではほとんどマスクをしたことがなかったからです。
今夏のことを振り返ってしまいました。
かすむ遠い過去をぼんやり眺めるように。
あのうだるような暑さの中でのマスク。
あれは恐怖にも似た苦痛でしかなかったな。
けれど、こうして環境が変われば、いま自分はこうも感じられるのね。
この感覚というものの、なんと単純なことだろう。
商店街の寒空には三日月が青白く光る。
それを仰ぎ見て、独り言ちてみた、年の暮れを迎えたところです。