ご飯を食べる前、面にした手のひらをキュッさせたくぼみに、
袋から取り出した4、5かけらのクルミで小山を作ります。
それをいっきに口に放り込んでポリポリやるのです。
私は朝はおなかがすくタイプでもあるからか、
噛んで含んだクルミが香ばしく、実に美味しく感じられます。
クルミを食べるようになったのは、
幼少の私に祖母が語ったこんな言葉をふと思い出してから。
「クルミは脳ミソに似ている。クルミを食べると頭がよくなるんだよ」
当時、祖母が仏様に手作りの供物をお供えしていたのを覚えています。
供物は、かしわ餅を少し平たくしたような形をしていました。
皮は小麦粉を煉って作ります。
餡の記憶は定かではありませんが、すり鉢ですりつぶしたクルミと黒ゴマに、
砂糖と味噌を加えて混ぜたものだった気がします。
餡を皮に包んで、湯に通せば、供物の出来上がり。
これを皿に並べて、お供えしていたのです。
祖母の出身は、青森県の北部地方。
きっと、その地方の先祖の弔い方を踏襲していたのでしょう。
クルミの殻を何かで割っている祖母の姿が思い出されます。
当時売られていたクルミは、殻つきのものが普通だったかもしれません。
ゴマも、今のようにすったものは売られていなかったのかもしれない。
そう思えるのは、当時、お供えした後の供物をいただいたときの、
口の中にいっぱいに広がるクルミとゴマの新鮮で濃厚な香りの記憶が、
鮮明すぎるからです。
ところで、美容や健康によいとされるクルミは、れっきとした漢方薬。
正式な薬名は「胡桃肉」(ことうにく)です。
加齢からくる息切れ、足腰の弱まり、便秘などに効能があるとされます。
「加齢からくる」症状、ここがポイントです。
これによいとされる効能を広い意味でとらえるなら、
クルミには、脳の老化を防ぐ効能があると言えるから。
泰宏、ばあちゃんが言ったことは本当だったろう?
泉下から祖母がこう言っている気がします。