福島に実家があるというと、
「冬は雪が降ってたいへんでしょう? でも、スキーができるのはいいね」
「果物がたくさん採れるところだよね」などと言われることがある。
いや、違うんだってば。
福島といっても地域によって、いろいろなのだ。
大きく分けて、内陸と沿岸部では、文化も風土も異なるし、
沿岸部でも、北と南の地域には、それぞれ異なるものがある。
私の実家は、沿岸部のいわきにある。
それも南側の端っこの、茨城県に近いところに。
そこは福島でも、冬は雪がほとんど降らない温暖な地域。
採れる果物の種類は多くないけれど、海産物が豊富に獲れ、
ちなみにだが、夏は海風が吹いて涼しい。
常磐自動車道の下りでは、案の定、数珠つなぎの車列が続くノロノロ状態に。
連休中でも、10年ぐらい前までは、常磐自動車道があんなに混むことはなかった。
地元の観光名所、スパリゾートハワイアンズや、
以前は観光に不人気だった茨城への来訪者が増えたこともあるのかしらん。
渋滞の中、窓を閉め切った車内の空気はよどむ。
しかし窓を開けるわけにもいかず、クーラーを付けたのがいけなかった。
クーラーに当たったのが、今年初めてのことで、
人工の冷風に体が慣れていないこともあった。
不覚にも、軽いクーラー病にかかってしまったのだ。
おでこから頭の芯が、重く締め付けられるように痛んだ。
むかつきも感じた。
こんなときに限って、得意の漢方薬を携帯していなかった。
わきが甘い自分に、腹が立った。
不調は翌朝まで続いていたが、
その午前中は家族を連れて、何十年か振りの海釣りに出かけた。
初夏の快晴とはいえ、南東北の吹く海風は、刺すように冷たかった。
防寒のために、ニット帽をかぶり、インナーを重ね着し、
デニムコートを羽織ってきたのは、正解だった。
さらに、首や胸元を冷やさないように、
コートの襟を立てて、
コートのボタンは第一ボタンも全部留めて、海に臨んだ。
不調を感じる部分には、
薄く濁った膜のようなものが絡みついて、血流を悪くしている感覚があった。
海風はそこにも、ビュンビュンと叩きつけるように容赦しなかった。
すると、どうだろう。
単なる風の圧力にすぎないはずの海風が、
潮の香をまとったエアシャワーとなって、全身に心地よく作用してきたのだ。
一日が過ぎても消えなかった膜が洗い流され、徐々に溶けていくのを感じた。
海に来て、10分か15分もしないうちだったと思う。
あの不調が、すっかり消えてしまったのだ。
自然って、すごい!
自然の偉大さを改めて知ることができた帰省の旅だった。