特注品で作った大きな額縁の一つに、
それらは横に一列に並べられ、薬局内に飾られてある。
以前、中国の友人を介して頼んだ、
プロではないけれど、
その方面に腕に覚えがあるという現地の方に、描いてもらったものだ。
私は画は全くの素人だ。
頼んだ身分で言うのは憚れるけれど、
その画があまり上手いものだとは思えない。
しかし、中華ふうの筆致で描かれたその風貌、彼らが纏う衣装のさまなどが、
悠久の歴史に連なる伝統医学の重みをわずかながらも感じさせてくれ、
専門薬局としての雰囲気を醸し出してくれてもいる。
だから、素敵な画だと思える。
実際、初めてここに来られた方が画を見て、
「なんか、いいですよね」と言ってくださることが、度々あるのだ。
画は、胸元より上の半身が描かれたものだ。
それぞれの胸元の下には、
流れるような、跳ねるような字体で、
これは、草書体というのだろうか。
医家の簡単な略歴が書かれてある。
漢方を知らない方には、興味のない内容かもしれないけれど、
それぞれの医家について、
彼らが活躍した時代の古い順から、説明しておきたい。
名医の代名詞とされる「扁鵲」(へんじゃく)は、
紀元前500年頃の伝説上の人物で、
鍼灸治療にも長けていたとされる。
これが、結構“イケメン”に描かれている。
中国の歴史に精通している方なら、お分かりかもしれない。
西暦200年頃、当時の興亡を描いた歴史書、
「三国志」にも登場する「華陀」(かだ)は、外科医として有名だ。
水虫薬の「華陀膏」(かだこう)という薬名の由来は、
彼の名前を冠したものである。
16世紀と言えば、他の二者と比べ新しい時代なので、
かなりリアリティーがあり、親近感が湧く。
私が最も敬愛する医家、「李時珍」(りじちん)はその頃、
薬物学の世界的な名著、「本草綱目」(ほんぞうこうもく)を遺している。
1日に何度かふとした瞬間に、画に目を留めることがある。
それは私が自律的に見ると言うより、
私が彼らに吸い寄せられ、見つめられているように思えてしまう。
そのとき、画の輪郭から、
ふわふわした波動がぼーっと伝わってきて、私は問われるのだ。
「どうなんだ? お前は」
私は、こう答える。
「あなた方のその精神に、ただ一歩でも近づきたいのです」