身体のケア

雨上がりの曇りの日の早朝は、
濡れたアスファルトの路面から、肌に心地よい涼しさが立ち昇っていた。

日課のウオーキングをしていた。
遠くの筋向こうに、おじいさんが杖をついて歩いているのが見える。

距離が近づいた。
おじいさんは笑みを浮かべながら、
ちょこんちょこんと頭を下げ、会釈するようなしぐさをする。
自分に? 誰だろう?

距離が、ぐんと近づいた。
お互いに向けられた視線が、
道路端の両面に対しほぼ直角に、
1本の線で固定されたとき、
私はようやく、気付くことができた。

「あっ。久しぶりですね」
そのおじいさんと遇うのは、半年ぶりくらいのことだった。

私がウオーキングを始めたのは、10年以上も前のことだ。
当初は、面識のなかったおじいさんとは、
そうしてときどき遇ううちに、
「おはよう」「暑くなりそうですね」などと、
たわいない挨拶を交わす関係になっていたのだ。

おじいさんだと、すぐに気付かなかったのは、
遇ったのが久しぶりだったからではない。
その変貌ぶりからだった。

それまでのおじいさんは、杖などつかずに、
シャキシャキと元気に歩いていた。
それが、ペタペタと歩く感じになり、歩く速度も緩慢になり、
おじいさんそのものが、小さくしぼんでしまったように見えたのだ。

「元気でいてくださいよ!」
「いやー。もう、八十七だもの・・・」
「再来年は、東京でオリンピックですよ」
「まだ若いから、いいね(笑)」

衰えを感じながらも、身体のケアを怠らない、
そのおじいさんの姿勢に、エールを送ってあげたい気持ちになったのだった。