未病

「未病」という言葉を聞いたことがあるでしょう。

この言葉が、歴史上最初に登場したのは、
約2千年前に書かれた中国最古の医学書において。
私にとっては「聖典」ともいうべき書物ですが、
これを紐解くと、「腕のよい医者は、未病のうちに治す」などとあります。

一方、日本では、今からさかのぼること江戸時代、
当時出版された健康指南本の中で、
「未病」の意義が説かれたことを契機に、
この言葉がメジャーになり、今に至っているわけです。

ただ、当時と今とで話される「未病」の意味には、違いがみられるのです。
どんな違いなのか?

例えば、食欲不振と”ふらつき”が続くので病院へ行ったが、
検査をしても、なにも異常がみつからなかった。
あるいは、普段は、なんの自覚症状もなく元気に過ごしていたのだが、
定期健診を受けたら、たまたま血液上の数値に異常がみつかってしまった。

こうしたケースはすべて、予防医学の観点から、
病気になる前の状態、「未病」と考えます。

これに対し昔は、あきらかな症状を自覚し、苦痛をともなうのであれば、
「未病」ではなく、すでに「病気」の状態であると、考えたのです。

それでは、昔の「未病」とは、どんな状態をいったのか?
まず1つは、当人は、まったく自覚がないけれども、
腕のよい医者の見立てでは、
当人の顔色、脈の流れ、目つき、臭い、呼吸─
などに異常のサイン、「未病」がみとめられる。
この段階で早めに治してしまえば、本当の病気にかからなくて済むわけです。

もう1つは、当人に自覚症状があり、これを「未病」とするもの。
ただし、これは普通の症状でなないのです。
放っておくと、重篤な病気に進展する可能性があり、
腕のよい医者は先手を打つことで、「未病」のうちにこれを防いだのです。

古い書物に書かれていることがすべて真実だとは言えませんが、
昔のお医者さんは、「虚」と「実」の境界を射抜くようなするどい感性をもって、
病気の治療にあたっていたのでしょうね。

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