骨の余り

自分の歯がたくさん残っている高齢者ほど健康で長生きする─。
こんなデータが、専門家から報告されています。

歯がたくさん残っていれば、
少しくらい硬くても、噛みにくいものでも、何でも食べることができます。
歯が残っていない場合とは、
食べものから得られる栄養の状態に差が出るわけです。

また、しっかり噛むことの刺激が脳に伝わり、
認知機能の低下も防ぐとされます。

ただ、たとえ歯が残っていなくても、
栄養の状態や噛むという機能面だけを考慮するなら、
自分にピッタリの入れ歯やインプラントなどで、
それを可能にできるはずですよね。

ところで、中国四川省の病院で研修していた20年前のことを思い出します。
農村から来院した、日焼けのした60代の女性がいました。
当時の中国の農村出身者の60代といえば、
その容姿はかなり老け込んで見えたものです。
先生は彼女を指して、私にこう言ったのです。
「彼女の歯は白くて歯並びがきれいだろ。年齢の割には生命力がある証拠だ」

中国の伝統医学では、「歯は骨の余り」と考えます。
高齢者でも、背筋がしゃんとし、しっかり歩けるのは、
全身の骨格がまだまだ頑健だからです。

骨には、両親から受け継いだ先天的な生命力が宿るとされ、
それは背骨を通して脳に注がれ、脳を滋養し、脳の機能を支えるとも考えます。
その頑健な骨の延長に、丈夫な歯が生えそろうのです。

つまり、自分の歯が残っている高齢者ほど健康で長生きできるというのは、
噛むことで後天的に補われる栄養素の多寡よりも先に、
遺伝という先天的な要素が大きな役割を果たしているといえるのです。